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「染司よしおか」五代目当主・吉岡幸雄氏が選んだ今月の色の過去の記事より、人気のエッセイを紹介しています。最新記事はこちらでどうぞ。

2010年4月
桜の (とき)によせて

『王朝のかさね色辞典』より植物染め桜の色
王朝のかさね色辞典
「桜の色」より

今年は、お正月から気候に変化がありすぎるようで、身体がついていけないところがある。

寒い日には雪や (あられ)の降る時があるかと思うと、5月のような気温になったりする。桜の開花もいつもより早く、桜見の予定をたてなければ、というような思いでいたら、戻り寒波というか、3月29日には京都でも雪が降って、その翌日はうっすらと雪化粧であった。

梅に雪というのは絵になるが、桜には少しあたたかな風をあげたいような心地でこの原稿を書いている。

何度も書くようだが四月はなにをおいても桜である。

桜色に 衣はふかく 染めて着む
 花の散りなむ のちのかたみに

という一首がこの季節には幾度となく口にでる。

古今集が編纂されたり、源氏物語が著された頃の王朝人は、めぐり来る季節の草木花に想いをはせて、その彩にあわせた襲ね色を着るという優雅な心を持ちあわせていたのである。

日ごとに暖かくなってくる桜の満開の時などは、花の宴がいくつもひらかれた。邸に招かれる機会は度々ある。その折に、どのような桜の襲ねを着ていくのか、悩みながらもそのひとときは心ときめくものであったのであろう。

昨今は、桜色に染めるには桜の樹を使って染めるむきもあるが、古の文献をみると、紅花や蘇芳という赤色をかもし出す染料を使っている。貴人たちから注文された染屋は、それに答えるべく、様々な工夫をこらしたのであろう。

そうした王朝の人々の色彩感を探るには、源氏物語なら「花宴」「若菜」などの帖を読むと印象的である。

それにしても、この3月末のように時ならぬ雪があったりしたら、貴女たちのふるまいはどうであったか…。

桜の花は麗しいが、移り気けりないたずらをするものである。 それでも京の桜見は、場所を選べばまだ一ヶ月はあるであろう。最後は御室仁和寺か、あるいは東北の比叡山の山桜か、西の愛宕山か…
お楽しみあれ。

(3月31日に記す)

染織史家・吉岡幸雄

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